熊野本宮 四季の山々
春、七越の峰の桜が滔々と流れる熊野川の水面に映えて咲く頃、遠く望む果無の尾根のブナ林帯はいまだ眠りから覚めないのか、葉を落としたままの姿である。しかし、目を少し下に向けると、そこには山桜、タムシバやアセビの可憐な花が見ることが出来る。
また流域の自然林ではシデ・ケアキ・コナラなど、川辺のヤナギと共に息吹きが始まり、行き交う人々の心をなごませている。川沿いで大木となるヨシノヤナギは芽だしと同時にヤナギ独特の黄色の花を咲かせ、上部にはヤマツツジやコバノミツバツツジが赤や薄紫の彩で、一歩谷合に入るとニワトコやコバノガマズミ等の可憐な花がひっそりと咲いている。
そして田畑のあぜ道ではタンポポ・キジムシロ・キツネノボタンなど黄色の可憐な花を咲かせ、春の散策に最適である。
初夏を迎えるころには、木々の若葉が萌えたつように風になびいてまるでパノラマを見るような風景だ。春の木々の花についでシイ、カシなどの照葉樹林の花が森を覆いつくし、微かな匂いを漂わせている。集落の近くでは桐の大木が淡紫色の大きな花を誇らしげに咲かせている。
又、スギ、ヒノキの人工林内にはクロモジやコガクウツギが花を咲かせ甘い匂いが林内を包んでいる。
道端では、アセビやウツギの花が、谷合ではタニウツギが朱赤い小さなラッパ状の花を咲かせ、大木に這い上がったフジカズラが暖簾のように薄紫の花を吊るしている。
古道沿いのあぜ道などでは群生したタチツボスミレなど、民家の庭先には可憐なヒメスミレが咲いている。
真夏を迎える頃には、熊野の森全体が鬱蒼と見えるが、川沿いの道筋では大木となったネムの花や、真っ白であじさいのようなノリウツギの花を見ることが出来、この頃にはキイチゴの実が熟して子供たちを楽しませている。
又秋には遠望の果無山脈や大峰奥駆道の紅葉が素晴らしく、真っ赤なモミジ、ハゼ、カキなどと黄色のブナ、ミズナラ、コナラなどのコントラストが素晴らしい。
そんな中でも山裾ではシロダモやヤマグミが白い花を咲かせ、自然に春の訪れを促しているようだ。又人口林内ではアオキが赤い実をつけて小鳥達をまねいている。
古道沿線ではアサマリンドウが青紫の花をつけ道行く人達を楽しませ、川沿いではノブドウがコバルトブルーの艶やかな実を付けているが、残念ながら食用にはならない。
温暖化の影響か最近は、紅葉も遅れ冬の到来は12月を過ぎてからで、果無の尾根のブナも葉っぱを落とし既に冬支度に入っているが、集落周辺ではまだ晩秋の装いだ。
年が明けて木枯らしが吹くころには、落葉樹も冬眠期に入りモミ、ツガ、スギ、ヒノキや常緑の広葉樹が春までは幅を効かすことになる。奥山で雪が降り積もるこの時期に早くも春を待ちかねて咲く花がある。それはバイカオウレンとセリバオウレンだ。山間の日の当たらないような場所に
小さな白い花を見る事ができる。又谷合では秋、花の付けたフユイチゴが赤い実を付けて寒さに耐えながら春の訪れを待っている。
この熊野の森は四季を通して人々の五感をくすぐり癒し、そして楽しませる事の出来る自然の豊かさを満喫できる地域である。
◎野鳥
春 大斉原の杉の梢で大ルリのさえずりと美しい姿を見る事ができる。
夏 川面では大空からミサゴがディスプレイ飛翔し、水中の魚をめがけて足から飛び込む姿がみられる。
冬 春からホーホケキョとさえずり続けていたウグイスも秋から冬場は地鳴きに変わって
「チャッ チャツ」と云う鳴き声を出し、道端や庭先でも姿を見る事が出来る。
協力:裏地好晴 NPOわかやま環境苗恵とワーク紀州語り部
(熊野の森、和歌山の樹木など山の植物・生き物・自然に精通) |